介護のこと ~その2~高齢者向け施設
介護保険における施設サービスとは、「指定介護老人施設(いわゆる特養)」、「介護老人保健施設」があります。
費用が割安の事もあり需要が多いのですが、特養では要介護3以上の認定が必要です。老健においても、医療の必要な人に入所が限定されているなど、高い基準が定められています。
そのほかの高齢者向け施設としては、「グループホーム」、「有料老人ホーム」等があります。有料老人ホームは更に、「住宅型有料老人ホーム」と「介護付き有料老人ホーム」とに分類されます。
そのほか<サ高住>と呼ばれる、「サービス付高齢者向け住宅」と呼ばれる賃貸住宅があり、こちらは「見守りサービス」と「生活相談サービス」が用意されています。
最初に挙げた「特養」、「老健」は費用が割安ですが、他の施設は料金やサービスに幅があります。そのため、どのような視点で施設を選ぶかが、大変重要になってきます。
選択のポイントとして、次の事項に注意しましょう。
・<立地条件> 住み慣れた地域か、家族や知人が来やすい地域か、外出しやすいかなど。
・<費用> 入居金の要不要と金額、毎月の利用料など。
・<入居条件> 将来の想定される不安をカバーできそうか。
・<権利> 終身利用可能か、契約者死亡後の配偶者の利用の可否など。
・<施設> 専用スペースに関する事、共用スペースに関する事。
・<医療体制> 施設内での医療体制、協力病院との連携など。
・<介護サービス> 外部の事業者か、当該施設のスタッフか、費用は別か込みかなど。
・<食事等> 食事の費用、メニューの選択、入浴、選択、清掃など。
・<運営法人> 経営状態、実績など。
初期費用の掛かる施設を選んだ場合など、自宅をはじめとする主要財産を処分して、入居する場合も多いと思います。それなのに運営法人の経営状態がおかしくなり、施設が存続不能になるような事態に陥ってしまっては、取り返しがつきません。
また施設を取り巻く経済状況の変化などから、入居費用の値上がりがあれば、当初の費用計画が狂ってきます。費用計画はある程度余裕をもって、計画をしておくことが望ましいでしょう。
施設を選ぶにあたっては、自身の保有財産額を確認することはもちろんですが、多くの施設の情報を集め、候補を絞り、そのうえで実際に足を運んで見学や体験入所をして、雰囲気が合うかどうかを肌で感じることが大変重要になります。
老後の生活を充実させるため、欠くことのできない確認事項です。
介護のこと ~その1~介護保険の申請と認定基準
あなたにも何時か、介護を必要とする時が訪れるかもしれません!
それは突然襲いかかるかもしれませんし、気が付かないうちにゆっくりと近づいてくるかもしれません。
また全くそんな日が訪れることなく、一生を通じて健康に過ごせるかもしれません。
以前にも書きましたが、2026年には「認知症患者が700万人規模に(65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症患者に)」(「未来の年表」(河合雅司 著;講談社現代新書)より)という予測もあります。
認知症はもはや、他人事などではありません。また認知症にならなくとも、脳血管疾患などに起因する麻痺症状やその他の特定疾患により、介護を必要とする状況に陥らないとは限りません。
「介護」を明確に人生の<リスク>の一つとして捉える決意を持ち、万が一に備えておくことは、「終活」の考え方に沿うものだと確信します。
しかし必ずエンディングノートを使って、何らかの記述を残さなくてはならない訳ではありません。
家族と話し合いの機会を作り、介護についての方向性を決めておく事が、最も必要な事と思います。
だからと言って、エンディングノートに自身の希望を書く事が、全くの無駄というわけではありません。
家族と話し合う機会を先延ばしにしている間に、自分の意思を伝えられない状況に陥ってしまうことも考えられます。そのような時でも、エンディングノートに書いておくことにより、介護のプランを自身の望む方向に導くことが期待できます。
いずれにせよ自分事として情報を集め、普段から考えておくことはとても大事な基本事項と言えるでしょう。
介護保険の利用は、住所地の市区町村への要介護認定の申請から始まります。
自分や家族で行うことも可能ですが、一般的にはケアマネージャーに依頼します。その後の介護プランも、ケアマネージャーと相談の上で組み立てていきます。
申請がなされると、「訪問調査(1次判定)→主治医意見書の提出→介護認定審査会(2次判定)→認知結果の通知→ケアプラン作成→介護サービスの開始」と言う流れを辿って、順次進行していきます。
介護認定には、「要支援」が2段階と、5段階の「要介護」認定があり、その目安は次の通りです。
・<要支援1> 日常の一部に見守りや手助けが必要。
・<要支援2> 日常の基本動作は自分で可能だが、立ち上がりなどに手助けが必要。
・<要介護1> 日常生活の一部に手助けが必要で、歩行などが不安定。
・<要介護2> 記憶力や思考力が明確に衰え、日常の動作にも支援が必要。
・<要支援3> 食事や排せつなどに一部介助が必要。徘徊などの問題行動。
・<要介護4> 日常生活に全面的な介助が必要。意思疎通が困難。
・<要介護5> 日常生活を遂行する能力・理解力の著しい低下。
ケアプランはケアマネージャーにより作成され、その後の介護生活においてもケアマネジャーは大事な伴走者となります。
そのためケアマネージャーの能力、そしてケアマネジャーとの相性が、将来に渡ってとても重要になってきます。
ケアマネージャーに出会うには地域包括支援センターに相談して紹介を受けたり、すでに目当ての施設があればそこに所属するケアマネージャーにコンタクトを取るなどして、まずは話をしてみることをお勧めします。
在宅介護を望むのか、それとも施設での介護を選ぶのかにより、介護計画は大きく変わってきます。ケアマネージャーに相談する前に、在宅か施設かの希望を検討しておいたほうが良いでしょう。
もし在宅介護を望むのであれば、家族の理解と協力が不可欠になります。その意味合いからも家族と事前に話し合っておくことは、欠くことのできない重要なステップになってきます。
医療について ~その3~臓器提供と献体
臓器提供とは重い病気や事故などにより臓器の機能が低下した人に、健康な臓器を提供して機能を回復させる治療の事です。
脳死を迎えた後または心臓が停止した死後に、臓器提供をすることができます。
脳死とは、呼吸などの生きていくために必要な働きを司る、脳幹を含む脳全体の機能が失われた状態の事です。失われた機能が、二度と元に戻らない状態を「脳死」と言います。
ちなみに植物状態と言うのは、脳幹の機能が残っていて自ら呼吸できる場合が多く、回復する可能性もあります。
つまり脳死と植物状態とは、まったく異なる状態の事を言います。
脳死後は全ての臓器の提供が可能ですが、心臓停止後になると提供できる臓器は腎臓、すい臓、眼球に限定されます。
以前は生前に書面で臓器を提供する意思を表示している場合に限られていましたが、2010年に改正臓器移植法が施行され、本人の臓器提供の意思が不明である場合であっても、家族の承諾があれば臓器提供できるようになりました。
意思表示の方法は、大きく分けて3通りあります。
- インターネットによる意思登録
- 健康保険証等(運転免許証やマイナンバーカード)の意思表示欄への記入
- 意思表示カードへの記入
2017年7月末現在における臓器移植希望登録者は約14,000人ですが、実際に移植を受けられる方は、年間およそ400人と言われています。
臓器移植希望者と臓器提供者の数のアンバランスがあり、常に希望者が臓器提供を待っている状況にあります。
臓器提供は有意義な選択の一つと言えるでしょう。
(公社)日本臓器移植ネットワークのHPに詳しい記述がありますので、興味をお持ちになった方は参照してください。
https://www.jotnw.or.jp/index.html
次に献体について、ご説明いたします。
献体とは、医学部・歯学部における解剖学の研究・教育に役立たせるため、自分の遺体を提供することを言います。
献体を希望する場合は、(財)日本献体篤志会(http://www.kentai.or.jp/index.html)に相談するのが良いでしょう。
献体を受け入れている大学のリストを提供してもらえます。自分の条件や希望なども、相談することができます。
リストを受け取ったら直接大学に電話をかけ、受け入れの可否、条件などを確認します。
以前は献体を希望する人はあまり多くいませんでしたが、最近は考え方の多様化もあり、献体を希望する人が増えています。
登録者が多いため、受付を中止している大学もあるのが現状です。
大学と個別に相談を進め、受付が決定したら登録手続きを行います。
各大学により受け入れの流れが異なるため、その意味でも具体的に直接電話等でコンタクトを取って進める必要があります。
死を迎えたときには、登録してある大学へ連絡をとり、遺体が大学へ搬送されます。
解剖研究に付されるまでの期間も大学により異なりますので、問い合わせの時に確認すると良いでしょう。
大学側で火葬を済ませた後、遺骨は遺族に戻されます。大学によっては霊園を所有しているところもあり、その場合は希望すれば埋葬も可能です。
通常、搬送や火葬、埋葬は大学側の負担で行われます。
また大学に搬送される前に、通夜や葬儀が可能な場合も多く、それらも含めて大学側と具体的に打ち合わせをしておけば安心感が高まることでしょう。
医療について ~その2~尊厳死宣言
「尊厳死宣言書」とは、どんな文書なのでしょうか?
終活に関心のある方はご存知かもしれませんが、初めて耳にする方も多いと思います。
完治する見込みのない病気などで、最期の瞬間が迫っているときなどに、過度な延命治療をせず自然な死を迎えたいという思いを、家族や医療関係者に伝えるための文書です。
法的拘束力はありませんが、例えば延命治療について自分と異なる意見を持つ家族がいる場合、公的な文書を残しておくことで明確な自分の思いを伝えることができます。
もちろん自書により宣言書を作成することも可能ですが、公的な第三者的機関を利用して自分の意思を表現することは、より強い意思を表すことの客観的根拠ともなります。
第三者的機関を利用しての宣言書を作成する方法は、①日本尊厳死協会の宣言書(リビングウィル)と、②公証役場において作成する尊厳死宣言公正証書の2つがあります。
先に申し上げた通り、法的拘束力はありませんが、公的機関を利用して作成していることで、周囲の人に本人の強い意思を伝えることが期待できます。
日本尊厳死協会は、一般財団法人です。東京の文京区本郷に本部があり、日本全国に8つの支部を置いています。
HPがあり、協会やリビングウィルについての詳しい記事が出ていますので、尊厳死宣言への理解を深めるためにも、一度webサイトを閲覧してみることをお勧めします。
(https://www.songenshi-kyokai.com/)
次に公証役場で公正証書として作成する場合ですが、大まかな流れは次の通りです。
- 尊厳死宣言書に記載する内容を考え、原案を作成する。
- 原案を持ち公証人と打ち合わせを重ね、宣言書の文案の作成を公証人に依頼する。
- 公証人から出てきた文案を確認して、必要な構成を行う。
- 公証役場にて、尊厳死宣言公正証書の作成を行う。
ざっと、このような流れになります。
法的拘束力はないとは言え、本人の希望であることは確かで、特別な事情がない限り、全く無視されることはないでしょう。
また親族間で尊厳死についての意見が分かれることが考えられる場合にも、本人の意思が明確に表現されていれば、後々の争いの種になることはないでしょう。
これらの利点を考え合わせると、尊厳死宣言書を残すことは非常に意義のあることだと、お分かりいただけると思います。
また意識のない状態に陥るなど、自分では意思を表現できない状態に陥る事もあります。
そのような時にも、尊厳死宣言書の用意があれば、自分に代わって意思を表明してくれます。
現在の日本の医療は「生かす」医療です。病院においては自然死を避け、できる限りの治療を続けるというのが基本です。
意識のないまま生き続けることは不本意だと日頃は思っていていても、意識がなくなってからでは訴えることはできません。
また植物状態での延命措置が長期間に及べば、その場合の家族の経済的負担は計り知れない額になることが当然予想されます。
どんな状態になっても命をつなぎたいと願う事も、もちろん間違いではありません。
どちらにせよ、自分の願う最期を遂げるためにはどうするか?
意識のない状態で生き延びたくないと考えるのであれば、尊厳死宣言書は必要な選択だと思います。
医療について ~その1~医療同意と終末医療
突然の体調の変化などのために、医師に対して医療について自分の考えや希望を伝えることが困難になることも、日常生活の中では普通に想定できます。
その時のために備えておきたいのが、終末医療に関する事前指示書です。
本人の意思の確認が困難な場合、病院は家族や周りの付き添いの人に医療行為の同意を求めて、その後の医療行為を行います。
同意の内容が延命治療に関するなど深刻な場合には、決断を迫られる家族にとしては様々な思いが交錯し、容易に決断が下せない状況に陥ることでしょう。
その時の家族の心の負担の重さは、想像に難くありません。
また家族による苦悩の選択の結果が、ご自身の希望と違ったものである可能性も考えられます。
家族の精神的な負担を減らし、後の争いを防ぎ、ご自身の希望を叶えるためには、終末医療の事前指示書を用意しておき、かかりつけのお医者さんや家族との間で、ご自身の意思を共有しておくことが重要になります。
現在の医療は、基本的に「生かす」医療です。
家族にも大きな経済的負担を強いる延命治療をご本人が希望していなければ、事前に意思を明らかにしておき判断の根拠を示しておくことで、医療機関と家族との話し合いをスムーズに運ぶ事ができます。
巷間よく言われることですが、病院においては「老衰死」という診断はほとんどなされないそうです。
老衰と思われる患者さんにも(延命)治療が施され、最終的に「肺炎」「心不全」などの病名が付き、それを死因としているため、病院内での死因には「老衰死」が少ないという話を聞いたことがあります。
一方、在宅医療では無理な延命治療はせず、自然の移ろいを診ていくため、老衰死の診断が多いそうです。
在宅での終末医療の前提として、在宅医療の選択がポイントになります。
訪問看護・訪問診療などの医療を選び、自宅での最後を迎える準備をします。
そのうえで終末医療の指示書を用意しておけば、医療機関と家族との話し合いを、円滑に進めるための指針となりえます。
終末医療の指示書の内容としては、次のような事柄を抑えておきましょう。
・できる限り救急車は呼ばない
・心臓停止後の蘇生術は不要
・人工透析はしない
・経口摂取不能の時は、人工的な栄養摂取手段を取らない
・(改善見込みのないときの)人工呼吸器気の取り外し
・水分補給、輸血、抗生物質の不要
自宅で静かな最期を迎えたいというご希望があれば、万が一に備えて、終末医療の事前指示書を用意しておきましょう。
かしこまった形式でなくとも、まずはエンディングノートに、過度の延命治療を希望しない旨を書いておきましょう。
それによって決断を迫られる家族の精神的な負担も減り、後々懸念される親族間の意見の対立も防止することができます。
成年被後見制度 ~その4~任意後見制度と民事信託
法定後見は「判断能力が低下した後」で、「家庭裁判所が判断」し、「家庭裁判所が後見人を決定」します。
一方、任意後見は、「判断能力が低下する前」に、「自分の意思で契約」し、「自分で後見人を決め」ます。
これが、両者の大きな違いです。
また更に後見開始後も、任意後見では(法定後見と違い)資格のはく奪や権利の制限がありません。
法定後見の方は180余りの欠格条項があり、多くの士業、公務員、医師、教員、会社役員などになる事(続ける事)ができませんでした。
しかし2019年5月の国会で、「成年被後見人の権利制限適正化法案」(これらの欠格条項を一括削除する法案)が可決されました。
今後の動向に、注目していきたいところです。
任意後見契約を結ぶと法務局に登記されますが、この登記があると「任意後見優先の原則」が働き、法定後見の審判を受ける事は原則無くなります。
また将来認知症になり後見を受ける事になっても、任意後見には資格のはく奪や権利の制限がないので、すぐに上のような事態になることはありません。
権利義務関係についても、法定後見制度は法定されていますが、任意後見制度にあっては後見人と被後見人の契約によって定められます。
任意後見は基本的に、契約締結後に家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立をして、監督人が選任された時点から後見が開始されます。
その「後見開始の時期」の置き方により、一般に任意後見契約は3タイプの分類がされています。
その概要は、次の通りです。
1.<将来型>
本人の判断能力が十分な間に、任意後見契約のみを締結するものです。
本人の判断能力が低下したときに、家庭裁判所に監督人選任の申立をして、任意後見を
開始させます。
- <移行型>
こちらも本人の判断能力が十分なうちに、契約を締結します。
しかし<将来型>と違い、「見守り契約」や「財産管理契約」などの委任契約を結び、
本人の判断能力の低下前から、日常の心配事を解消していこうというタイプです。
任意後見制度の良さが、最も発揮される契約と言えるでしょう。
- <即効型>
すでに判断能力が少し低下していて、契約締結後はすぐに家庭裁判所に監督人専任の
申立を行い、任意後見を受けたいというときに利用されます。
さてここまで任意後見制度についてお話してきましたが、最近注目されているのが「民亊信託」です。
一般になじみのある信託銀行などによる信託は、「商事信託」と分類されます。
商事信託とは信託会社や信託銀行が受託者となり、業として信託を行うものです。
それに対して民亊信託とは、平成18年12月の信託業法の改正により誕生した信託です。
営利目的でなければ(反復性がなければ)、信託業免許を持たない個人や法人でも受託者になれるようになりました。
信託の登場人物には、財産を委託する人=「委託者」、財産の信託を請け負う人=「受託者」、そして信託財産から生じる利益を受ける人=「受益者」の3者がいます。
民亊信託を使えば、財産管理を家族や信頼のおける知人に任せることができます。
また遺言では困難な、数次承継も可能となります。
つまり遺言や後見では対応できないことも、民亊信託では可能になる使い勝手の良さがあると言えます。
個々人の状況や思いにより、どのような対応が良いのかは千差万別です。
と言うのも、平均寿命が延び以前とは比べようもない長寿社会になったため、認知症になる人が増えているからだと考えます。
成年後見制度 ~その3~法定後見について最近の動向
2019年4月に入ってから、法定後見の報酬見直しの動きについて、マスコミ各社からニュースが流れました。
4月3日の朝日新聞朝刊には、次のような記事が載りました。
「成年後見 報酬見直し促す」
<最高裁 業務量・納戸に応じて> 家裁に通知
(2019年4月3日 朝日新聞朝刊 見出しより引用)
以下記事の引用を交えながら、解説を進めていきます。
(引用部分は「」でくくり表示します)
後見人に対しては、被後見人の財産の中から一定の報酬が支払われます。
法定後見の場合は、家庭裁判所の判断により報酬額が決定されます。
(任意後見の場合は、契約時の当事者の協議により決定します。)
現状は被後見人の財産額を基準に、報酬額が決められる傾向にあります。
弁護士、司法書士、介護福祉士、行政書士などの専門職と呼ばれる人たちが担当する場合、「東京家裁の『めやす』によると、基準は月額2万円で、財産額に応じて報酬が上がる。全国的にも、こうした運用が一般的とされ」ています。
一方、親族が後見人を引き受ける場合には「本人の財産を減らすことになるため、親族は(報酬の)受け取りを控える傾向にある。」という現状があります。
家裁により一度決定された報酬額は、後見業務量の多寡によらず後見が続く限り継続するのが普通です。
この現状に対し最高裁は、「業務量や難しさなどを報酬に反映させるよう、家裁に促し」ました。つまり「中身の分かりづらいパッケージ料金から、個別の業務に応じた料金体系への変更を、家裁に促した形」です。
報酬に関しては、親族からその不透明性に関する不満や批判があり、それに最高裁が応えた形ではありますが、最高裁の考える方向に進捗するかどうかは何とも言えません。
(以上で朝日新聞からの引用を終了します。)
報酬に関する「不透明さ」の他にも、よくマスコミで報道されるのが、後見人による被後見人の財産の「着服や横領」の問題です。
最高裁判所事務総局家庭局の「成年後見関係事件の概況(平成30年1月~12月)」によると、親族等が後見人に選ばれる割合は、わずか23.2%となっており、76.8%は弁護士、司法書士、社会福祉士、行政書士などの専門職が選ばれています。
2000年の法定後見制度開始当初は、この割合は全く逆で、親族等の後見人が7割強、専門職後見人が3割弱でした。
しかし当時は親族による着服の事例が目立ち、それを問題視した家裁が、専門職を指名する傾向に移っていきました。
平成27年の内閣調査によると、着服や横領されてしまうトラブルは、専門職後見人の場合にはこの年は37件、被害額は約1億1000万円にのぼっています。
一方、専門職後見人以外における不正は484件もあり、被害額は29億7000万円に上っています。
平成27年当時は昨年に比べて更に専門職後見人の割合が少なく、専門職後見人とそれ以外の後見人(主に親族後見人)の割合は、おおよそ7対3の割合でした。
それを考えると、専門職後見人以外の着服・横領がいかに多いか、お分かりになると思います。
ただし親族後見人の着服・横領は、全てが悪意であるとは限りません。
どちらかと言うと、「親のお金だから」とゆるく捉えて、例えば今まで通り援助してもらうことは問題なかろうとか、認知症の父の財産の一部を、母や孫など家族のために使うことは問題なかろうと、日常の感覚で判断してしまった結果が、法的には着服・横領となっているケースも多くあると思います。
成年後見制度に対する認識・理解が不十分なために、親族後見人の不正の実績が多く発生していると考えるのは、けっして不自然ではありません。
今後の動向を、大いに注目して行きましょう。