成年被後見制度 ~その4~任意後見制度と民事信託
法定後見は「判断能力が低下した後」で、「家庭裁判所が判断」し、「家庭裁判所が後見人を決定」します。
一方、任意後見は、「判断能力が低下する前」に、「自分の意思で契約」し、「自分で後見人を決め」ます。
これが、両者の大きな違いです。
また更に後見開始後も、任意後見では(法定後見と違い)資格のはく奪や権利の制限がありません。
法定後見の方は180余りの欠格条項があり、多くの士業、公務員、医師、教員、会社役員などになる事(続ける事)ができませんでした。
しかし2019年5月の国会で、「成年被後見人の権利制限適正化法案」(これらの欠格条項を一括削除する法案)が可決されました。
今後の動向に、注目していきたいところです。
任意後見契約を結ぶと法務局に登記されますが、この登記があると「任意後見優先の原則」が働き、法定後見の審判を受ける事は原則無くなります。
また将来認知症になり後見を受ける事になっても、任意後見には資格のはく奪や権利の制限がないので、すぐに上のような事態になることはありません。
権利義務関係についても、法定後見制度は法定されていますが、任意後見制度にあっては後見人と被後見人の契約によって定められます。
任意後見は基本的に、契約締結後に家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立をして、監督人が選任された時点から後見が開始されます。
その「後見開始の時期」の置き方により、一般に任意後見契約は3タイプの分類がされています。
その概要は、次の通りです。
1.<将来型>
本人の判断能力が十分な間に、任意後見契約のみを締結するものです。
本人の判断能力が低下したときに、家庭裁判所に監督人選任の申立をして、任意後見を
開始させます。
- <移行型>
こちらも本人の判断能力が十分なうちに、契約を締結します。
しかし<将来型>と違い、「見守り契約」や「財産管理契約」などの委任契約を結び、
本人の判断能力の低下前から、日常の心配事を解消していこうというタイプです。
任意後見制度の良さが、最も発揮される契約と言えるでしょう。
- <即効型>
すでに判断能力が少し低下していて、契約締結後はすぐに家庭裁判所に監督人専任の
申立を行い、任意後見を受けたいというときに利用されます。
さてここまで任意後見制度についてお話してきましたが、最近注目されているのが「民亊信託」です。
一般になじみのある信託銀行などによる信託は、「商事信託」と分類されます。
商事信託とは信託会社や信託銀行が受託者となり、業として信託を行うものです。
それに対して民亊信託とは、平成18年12月の信託業法の改正により誕生した信託です。
営利目的でなければ(反復性がなければ)、信託業免許を持たない個人や法人でも受託者になれるようになりました。
信託の登場人物には、財産を委託する人=「委託者」、財産の信託を請け負う人=「受託者」、そして信託財産から生じる利益を受ける人=「受益者」の3者がいます。
民亊信託を使えば、財産管理を家族や信頼のおける知人に任せることができます。
また遺言では困難な、数次承継も可能となります。
つまり遺言や後見では対応できないことも、民亊信託では可能になる使い勝手の良さがあると言えます。
個々人の状況や思いにより、どのような対応が良いのかは千差万別です。
と言うのも、平均寿命が延び以前とは比べようもない長寿社会になったため、認知症になる人が増えているからだと考えます。
成年後見制度 ~その3~法定後見について最近の動向
2019年4月に入ってから、法定後見の報酬見直しの動きについて、マスコミ各社からニュースが流れました。
4月3日の朝日新聞朝刊には、次のような記事が載りました。
「成年後見 報酬見直し促す」
<最高裁 業務量・納戸に応じて> 家裁に通知
(2019年4月3日 朝日新聞朝刊 見出しより引用)
以下記事の引用を交えながら、解説を進めていきます。
(引用部分は「」でくくり表示します)
後見人に対しては、被後見人の財産の中から一定の報酬が支払われます。
法定後見の場合は、家庭裁判所の判断により報酬額が決定されます。
(任意後見の場合は、契約時の当事者の協議により決定します。)
現状は被後見人の財産額を基準に、報酬額が決められる傾向にあります。
弁護士、司法書士、介護福祉士、行政書士などの専門職と呼ばれる人たちが担当する場合、「東京家裁の『めやす』によると、基準は月額2万円で、財産額に応じて報酬が上がる。全国的にも、こうした運用が一般的とされ」ています。
一方、親族が後見人を引き受ける場合には「本人の財産を減らすことになるため、親族は(報酬の)受け取りを控える傾向にある。」という現状があります。
家裁により一度決定された報酬額は、後見業務量の多寡によらず後見が続く限り継続するのが普通です。
この現状に対し最高裁は、「業務量や難しさなどを報酬に反映させるよう、家裁に促し」ました。つまり「中身の分かりづらいパッケージ料金から、個別の業務に応じた料金体系への変更を、家裁に促した形」です。
報酬に関しては、親族からその不透明性に関する不満や批判があり、それに最高裁が応えた形ではありますが、最高裁の考える方向に進捗するかどうかは何とも言えません。
(以上で朝日新聞からの引用を終了します。)
報酬に関する「不透明さ」の他にも、よくマスコミで報道されるのが、後見人による被後見人の財産の「着服や横領」の問題です。
最高裁判所事務総局家庭局の「成年後見関係事件の概況(平成30年1月~12月)」によると、親族等が後見人に選ばれる割合は、わずか23.2%となっており、76.8%は弁護士、司法書士、社会福祉士、行政書士などの専門職が選ばれています。
2000年の法定後見制度開始当初は、この割合は全く逆で、親族等の後見人が7割強、専門職後見人が3割弱でした。
しかし当時は親族による着服の事例が目立ち、それを問題視した家裁が、専門職を指名する傾向に移っていきました。
平成27年の内閣調査によると、着服や横領されてしまうトラブルは、専門職後見人の場合にはこの年は37件、被害額は約1億1000万円にのぼっています。
一方、専門職後見人以外における不正は484件もあり、被害額は29億7000万円に上っています。
平成27年当時は昨年に比べて更に専門職後見人の割合が少なく、専門職後見人とそれ以外の後見人(主に親族後見人)の割合は、おおよそ7対3の割合でした。
それを考えると、専門職後見人以外の着服・横領がいかに多いか、お分かりになると思います。
ただし親族後見人の着服・横領は、全てが悪意であるとは限りません。
どちらかと言うと、「親のお金だから」とゆるく捉えて、例えば今まで通り援助してもらうことは問題なかろうとか、認知症の父の財産の一部を、母や孫など家族のために使うことは問題なかろうと、日常の感覚で判断してしまった結果が、法的には着服・横領となっているケースも多くあると思います。
成年後見制度に対する認識・理解が不十分なために、親族後見人の不正の実績が多く発生していると考えるのは、けっして不自然ではありません。
今後の動向を、大いに注目して行きましょう。
成年後見制度 ~その2~後見の手続き
今回は後見の手続きについて、東京家庭裁判所の「成年後見申立の手引」を参考にして、申立から後見開始までの流れを確認します。
①申立までの流れ
まずは申立をする裁判所ですが、本人の住所地(住民登録地)を管轄する家庭裁判所となります。
申立ができるのは、本人、配偶者、4親等内の親族、成年後見人等、任意後見人、成年後見監督人等、市区町村長、検察官になります。
申立準備としては、次の流れとなります。
1.必要書類を集める
2.申立書類の作成
3.申立書類の提出
また「必要書類」の内容は、次の通りです。
(1)申立書類(申立書、申立事情説明書、親族関係図、本人の財産目録及びその資料、
本人の収支状況報告書及びその資料、後見人等候補者事情説明書、
親族の同意書)
(2)戸籍謄本・住民票(本人及び後見人候補者)
(3)登記されていないことの証明書(本人)
(4)診断書(成年後見用)、診断書付票/鑑定書
(5)その他(都道府県により、提出を義務付ける書類が他にある場合があります。)
そしてとても重要なことですが、申立の取下げをするには、審判の前であっても家庭裁判所の許可が必要となります。
「(公益性や本人保護の見地から)後見開始の審判をすべきであるにも関わらず、取下げにより事件が終了してしまうことが相当ではない場合があるから。」(東京家庭裁判所「成年後見申立の手引」)と言う理由からです。
具体的事例としては、「申立人が選んだ候補者が、後見人に選ばれそうにないから申立を取り下げる」と言う事は、認められない可能性が高いと言う事です。
②申立後の流れ <申立~審理>
申立書が整ったら、いよいよ申立をします。
(1)申立人・後見人等候補者の面接
申立日に即日面接となるため、家庭裁判所に必ず事前予約をしておきます。
面接当日には、準備しておいた<必要書類>を持って行きます。
(最近は郵送などで事前に提出する傾向にある様です。)
(2)審理
審理の内容は、次の通りです。
a.本人調査(本人との面接)
b.親族の意向照会
c.<必要な場合は>鑑定 (平成28年度の鑑定実施は全体の約9.2%)
③審判
審理が終了すると、家庭裁判所は後見等の開始の審判をし、あわせて最も適任と思われる人物を成年後見人等に選任します。
後見人等は一人だけではなく、複数選任される場合もあり、また監督人が選任される場合もあります。
④審判の確定と登記
審判から2週間の抗告期間を経て、審判が確定します。
ここで正式に、「後見人等」に就任となります。(当然ここまでは後見業務はできません。)
審判が確定すると、家庭裁判所は東京法務局に審判内容の登記を依頼します。
後見登記が終了したら、後見人は「登記事項証明書」を取得して、それをもって金融機関、役所、不動産取引などを行います。
後見人等は就任後裁判所に対し、「初回報告」の義務があります。
「初回報告」とは、本人の財産目録と年間収支予定表の提出の事です。
選任後1カ月以内の提出が、民法に規定されています。(民法853条1項)
以上、ざっと流れを見てきましたが、時間的なことを最後に付け加えます。
東京家庭裁判所の「成年後見申立の手引」には、「申立を受け付けてから審判がされるまで1~2カ月かかります。」とあります。
審判がなされた後、2週間の抗告期間を経て登記が依頼され、その登記完了までにも通常数週間かかります。
つまり後見人等が登記事項証明書を手にするまで、申立から2~3カ月はかかってしまうと言う事です。
そして当然ですが、申立に先立つ準備の期間を含めると、さらに時間がかかります。
後見制度を検討する際は、時間的なことにも十分注意しておく必要があるでしょう。
また申立にかかる費用は、概ね2万円~10万円程度です。
費用の点からもう一つ、後見人の報酬について書いておきます。
後見が開始した後は、後見人に対しての報酬が発生します。
(後見人が申請しない場合は、もちろん報酬は発生しません。親族が後見人になった場合などは、多くの場合報酬を請求してないと思われます。)
報酬額は法定されてないため、審判の中で家庭裁判所が検討し決定します。
家庭裁判所の「成年後見人等の報酬のめやす」と言う文書によると、本人の財産状況により、1000万円までの場合は月額2万円、1000万円を超え5000万円までは月額3万円~4万円、5000万円を超える場合は月額5万円~6万円となっています。
監督人がつく場合には別途報酬が発生し、目安は上記の約半額となります。
成年後見制度 ~その1~法定後見の3つの類型
後見制度には、「未成年後見」と「成年後見」の2種類があります。
「未成年後見」とは、親権を行う者がいない場合、若しくは親権を行う者が管理権を有しない場合に、その未成年者の法定代理を行う制度の事です。
一方「成年後見」とは、「ある人の判断能力が精神上の障害により不十分な場合(認知症高齢者、知的障害者、精神障害者)に、その人を法律的に保護し、支えるための制度です。
(成年後見の定義について、東京家庭裁判所立川支部「成年後見申立の手引」より)
「成年後見」に関しては、更に「法定後見(法律による後見)」と「任意後見(契約により後見)」の2つに分類されます。
そして「法定後見」は、「後見」、「補佐」、「補助」の3つの類型に分かれます。
今回は、この「法定後見」の3類型について取り上げます。
さて「後見」、「補佐」、「補助」とは、具体的にはそれぞれどんな内容なのでしょうか?
精神上の障害による判断能力が不十分な程度に従って、当てはまる類型を判断します。
「後見」の場合は、「事理を弁識する<能力を欠く状況>」にある者。
「補佐」の場合は、「事理を弁識する<能力が著しく不十分>な状態」にある者。
「補助」の場合は、「事理を弁識する<能力が不十分>な状態」にある者。
と分類されます。
成年被後見人(後見を受ける人)及び、被保佐人(補佐を受ける人)には、法的に様々な資格制限や地位の制限を受けます。
例えば、国家(地方)公務員、医師、薬剤師、建築士、弁護士、司法書士、行政書士、税理士、公認会計士、校長や教員、株式会社の取締役など、180を超える資格制限があります。
この資格制限の規定が、成年後見制度の利用をためらう要因にもなっています。
(補助や任意後見には、このような資格の制限はありません。)
昨今、この資格制限(=「欠格条項」)を廃止するための論議がなされていました。
政府は2018年3月13日に成年後見制度の欠格条項廃止の関連法案を閣議決定し、法案を2019年の通常国会に提出して、2019年5月に可決されました。
今後の動向が、注目されるところです。
次に後見人の報酬について、確認していきましょう。
家庭裁判所に申立を行い、所定の手続きを経て、後見の審判が下りると後見開始となります。
申立ができるのは、「本人、配偶者、4親等内の親族、成年後見人等、任意後見人、成年後見監督人等、市町村長、検察官」です。
そして後見人には、「親族、専門職(弁護士・司法書士・社会福祉士・行政書士等)、一般の市民(市民後見人)、法人」が就任します。
申立の際に後見人の希望は出せますが、必ずしも希望通りになるわけではありません。
被後見人等の財産が多い場合は、専門職が選ばれる傾向があるようです。
また希望が通らなかったからと言って、申立を取り下げることはできません。
成年後見申立ては、一方通行なのです。
後見人等の報酬は、本人の財産の額を勘案して、裁判所の審判で決定されます。
目安としては、専門職の後見人等がつく場合の報酬は2~4万円/1カ月程度で、後見監督人等がつく場合の後見監督人の報酬は、後見人の半額程度となります。
後見人に対して、年間24万円~48万円の報酬の支払いが発生する計算です。
例えば後見が10年続けば、総額で240万円~480万円程度の支出になります。
それでは後見は、どんな原因で終了するのでしょうか?
終了原因は「本人の死亡」、「成年後見人等の辞任」「本人の事理弁識能力の回復」、「任意後見の開始」となっています。
「成年後見人の辞任」については、病気などやむを得ない事情がある場合に、家庭裁判所の許可を得て辞任をする事ができると定められています。
なお不正等で、家庭裁判所より成年後見人等を解任される事例がありますが、解任を受けた者は、以後二度と成年後見人に選任されることはありません。
認知症とその対応 ~その3~日常生活自立支援事業について
「日常生活自立支援事業」という事業を、ご存知でしょうか?
日常生活自立支援事業とは、ざっくり言うと、後見制度に近い役割を果たす制度と言えるでしょう。
厚生労働省のホームページには、次のように説明されています。
「日常生活自立支援事業とは、認知症高齢者、知的障害者、精神障害者等のうち判断能力が不十分な方が地域において自立した生活が送れるよう、利用者との契約に基づき、福祉サービスの利用援助等を行うものです。」(以上「厚生労働省HPより」)
また、対象者は「次のいずれにも該当する方です」として、
「・判断能力が不十分な方(認知症高齢者、知的障害者、精神障害者等であって、日常生活を営むのに必要なサービスを利用するための情報の入手、理解、判断、意思表示を本人のみでは適切に行うことが困難な方)」
「・本事業の契約の内容について判断し得る能力を有していると認められる方」
(以上「厚生労働省HPより」)
となっています。
つまり判断能力は不十分ではあるけれど、この事業の内容を理解・判断できる程度の能力が残っている人が、この制度の利用対象者となります。
事業主体は都道府県・指定都市社会福祉協議会で、窓口業務等は市町村の社会福祉協議会等が担当します。
静岡県の場合、社会福祉法人静岡県社会福祉協議会が実施主体となり、県下33市町の社協に業務の一部を委託するという形態をとっています。
市町の社協に委託される業務は、自立支援サービス(メニューは3種類)です。
伊東市の社協の説明文書を参考に、具体的な内容を確認してみます。
1.(基本のサービス)福祉サービスの利用援助
①福祉サービスの利用または利用をやめるために必要な手続き
②福祉サービスの利用料を支払う手続き
③福祉サービスについての苦情解決制度を利用する手続き
④日常生活に必要な事務手続き(郵便物や通知の確認など)
2.(付随サービス)日常的金銭管理
①日常的な生活費の払戻し、預入などの手続き
②医療費や公共料金、家賃などの支払い、口座引き落としの手続き
③年金や福祉手当などの受領に必要な手続き
3.(付随サービス)書類等の預かりサービス
貯金通帳・年金証書・権利証・契約書類・印鑑等、金融機関の貸金庫に大切な書類等のお預かり。
注意事項としては、次の事項が挙げられています。
※契約締結能力(具体的な援助内 容の理解力)が必要です。
※医師による認知症の診断や、療育手帳・精神障害者保健福祉手帳の有無は問いません。 ※「在宅で生活している方」「在宅で生活する予定の方」が対象です。
利用にあたっては1の基本サービスの利用が原則であり、付随サービスである「2.日常的金銭管理サービ ス」及び、「3.書類等の預かりサービス」のみを利用することはできません。
気になる利用料ですが、1回のサービス当たり1,000円です。(生活保護を受けている方は無料)
ただし、書類等の預かりサービスについては別途費用がかかると言う事です。
(詳細は< 伊東市社会福祉協議会(☎36-5512) 伊東市桜木町2-2-3>までお問い合わせください。)
このような割安な制度があるので、能力条件が合う場合には、検討してみることも良いかもしれません。
ただし契約などの法律行為の代理や、日常生活の範囲を超える財産管理などはサービスの対象とはなりません。
不動産の売却や、多額の財産管理などが必要な場合は、どうしても後見制度(法廷後見・任意後見)を利用せざるを得ません。
認知症とその対応 ~その2~認知症の理解(概要と種類)
認知症とは、一体どのような症状のことを指すのでしょうか?
物忘れをした時に、「まさか認知症?」などと冗談を言った事は誰にも覚えがあると思います。また人によっては、真剣にドキッとした経験を持ったことがあるかもしれません。
単なる物忘れも認知症も、記憶がなくなることには違いないので、一見共通しているように思えます。
しかし加齢による物忘れと認知症の間には、明確な違いがあります。
同じ物忘れでも認知症による物忘れは、体験した事全体をすっぽりと忘れてしまいます。それに対して加齢による物忘れの場合は、体験の一部分を忘れるという違いがあります。
例えば「ご飯を食べた事を忘れる」のが認知症、「何を食べたのかを忘れる」のが加齢による物忘れという具合です。
他にも認知症による物忘れには、「新しい物事の記憶ができない」、「ヒントをもらっても思い出せない」、「時間・場所の見当がつかない」、「物忘れの自覚がない」などが挙げられます。
加齢による物忘れの場合は、ヒントがあれば思い出すことができ、時間・場所の見当もつきます。加えて物忘れに対しての自覚を持っているなど、明らかな違いがあります。
この違いに照らし合わせてみて、もし不安を感じる場合には、病院で診察していただくことをお勧めします。
何事も、早めの手当てが肝心です。
さて一口に認知症と言っても、その種類は「アルツハイマー病」、「血管性認知症」、「レピー小体型認知症」、そして「その他の認知症」に大きく分類されます。
「アルツハイマー病」では記憶力に障害をきたし、また時間・場所・人物の状況把握が困難になる症状が現れます。
「血管性認知症」では、局所神経症状がみられ、脳血管障害があり、段階的な進行を辿ります。
「レピー小体認知症」の場合、初期には記憶障害の症状が目立たない場合が多くあり、見落とされることもあります。
しかし実際には幻視や、その幻視による妄想、また大声での寝言や意識の明瞭・不明瞭の差の激しさなどの症状が現れます。
認知症の予防策として、脳の活性化を日常から心がけることが、とても重要な事であることは、改めて言うまでもありません。
特別なことをやらなくとも、常に笑顔でいること、外で過ごす時間を確保すること、人の役に立とうとする意識を持つこと、複数の人と会話をすることなど、日常生活の中で自然に無理せず、楽しみながら継続していくことは、それほど難しいことではないでしょう。
この程度の事でも、脳の活性化には大いに役立ちます。
「諦めた瞬間から脳が委縮する」と言われます。
「できる」と確信すると、それを実現するために脳は必死に働くのだそうです。
色々なことに、明るく積極的にチャレンジする姿勢が大事です。
しかし楽しくもないのに、無理に継続しようとするのは禁物です。そうなると今度は「うつ」が心配されます。
終活と同様に、無理なく楽しめる範囲から、始めていくことが大切なポイントです。
認知症とその対応 ~その1~高齢化社会の現状
超高齢化社会の到来は、もうすぐそこまで来ています。
人口減少やいびつな人口構成といった深刻な問題を伴って、日々足音を大きくして近づいて来ています。
恐ろしいことに「人口問題」と「高齢化」は、セットでやって来るのです。
人口が減少しているのは、ご存知の通り若年層世代です。
若年層の人口減少は、将来に渡る更なる少子化を招きます。子供を産める世代の人口減少がマイナスのスパイラルを形成し、その後の人口減少を加速度的に進める要因になります。
逆に言えば、人口回復を望むためには、女性の生涯出産人数が劇的に増加する必要があると言う事です。
一方、「高齢化社会の到来」は、医療費の増加や認知症への対応などの、深刻な問題を生じます。
そんな状況について数字を使ってリアルに解説したのが、2017年に出版され話題になった「未来の年表」(河合雅司 著;講談社現代新書)という本です。
本の中で示されるショッキングな問題提起に接し、私も認識を改める部分が多々ありました。
主だったものを、目次から引用してみます。(すべて日本の事です)
(以下、「未来の年表」(河合雅司 著;講談社現代新書)の目次より引用)
2020年 女性の2人に1人が50歳以上に
2024年 3人に1人が65歳以上の「超・高齢者大国へ」
2026年 認知症患者が700万人規模に(高齢者の5人に1人が認知症患者に)
2033年 全国の住宅の3戸に1戸が空き家になる
2040年 自治体の半数が消滅の危機に
(引用終了)
「2024年の超・高齢化大国へ」については、一般に「2025年問題」と言われています。
しかし団塊の世代全員が75歳以上に到達するのは、実際には2024年の事です。
つまり「2025年問題」は、現実には1年前の2024年に発生します。
様々なシミュレーションの手法があるとは思いますが、一つの予測としてこれらの項目を見たとき、ぞっとするのは私だけではないでしょう。
今後20年余りの間に想像もつかないような世の中が、我々の目の前にその姿を現します。
総務省の「人口推計」(2017年6月1日現在)によると、2017年における日本の高齢化率(総人口における65歳以上の割合)は、既に27.6%にも上っています。
大きく日本全体でとらえたときに、「高齢化社会の到来」が綿密に検証・対応すべき重要な課題であることは、今更言うまでもないでしょう。
一方、個人の立場で高齢化問題を考えたとき、一番悩ましいのは「認知症」の事ではないでしょうか?
「未来の年表」においても、2026年には認知症患者が700万人を数えるという予測が出ています。別の表現をすると、「高齢者の5人に1人が認知症患者となる」という言い方ができるそうです。
高齢者の20%という確率は、ガンや成人病などと同等以上のレベルで、積極的に危機管理すべきレベルであると私は考えます。
ガンや成人病に対しては、様々な予防や健康管理、万が一の場合の保険など、具体的な対策を講じている方が多くいらっしゃるかと思われます。
同様に認知症に対しても、「認知症にならないか心配だ」と不安に思うだけではなく、より積極的に「認知症になった時のためどんな対策をしておくか」という対応が、皆に等しく必要とされると考えます。
次の章からは、認知症への対応と準備を、具体的に考えていきたいと思います。